中国雑誌「IT経理世界」の初音ミク記事を翻訳してみた

「中国のビジネスマネージメント雑誌「IT経理世界」に初音ミク記事」が誰も翻訳していないようなので、中検二級に落ちた私が翻訳してみた。

私としては、この記事をきっかけに、中国のボカロシーンにも注目が集まると嬉しい。
記事に出てくる裕剣流さんの曲ははニコニコにもあり、字幕もついているので見て欲しい。
洛天依】雑貨店魔法幻想曲(PV付き)【裕剣流】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm18976621
裕剣流さんの投稿リスト(bilibli動画、ニコニコよりも数が多い)
http://space.bilibili.tv/146339
裕剣流さんの投稿(ニコニコ)
http://www.nicovideo.jp/user/21589978/video
裕剣流さんのページ
http://site.douban.com/gz180/
洛天依新曲ランキング
http://www.bilibili.tv/video/av421837/

元になる記事はこちら。
http://www.boraid.com/article/html/217/217716.asp

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バーチャル・アイドルが来た

「IT経理世界」 2012年12月5日 作者:裴燕

 2012年10月2日と6日、“初音未来香港&台湾首次演唱会MIKUPA”が予定通りに開催され、現場では1万のファンが緑色のサイリウムを振り、歓声の中、一人の緑色のとても長いツインテールのアニメの少女の3D映像が舞台上に出現した。この3Dホログラム投影技術を借りて登場した萌え女の子こそ、コンサートの主役の「初音ミク」、「わずか16歳」のバーチャル・アイドルだ。

世界一のバーチャル・アイドル

 初音未来(日本名:初音ミク、ローマ字:HATSUNE MIKU)-華人世界では「初音」「咪酷(「みく」の当て字)と呼ばれている-は、世界初の本当の意味でのバーチャル・アイドルといえる。ポップ・ミュージックの世界では、アニメのイメージを使用して歌手やバンドを包装し宣伝する方式はすでにしばしば見られ新しくない。しかしこれらのイメージはすべて現実の人物の原型が元になっている。例えば、イギリスのバーチャル・バンド「Gorillaz」のように。オタク文化の中では、アニメや漫画のキャラクターが現れる2次元平面空間を2次元世界と呼び、現実世界を3次元世界と呼ぶのが習わしとなっている。この点から述べると、初音ミクとこれらのスターのアニメのイメージが明白に異なるのは、彼女が三次元の源にもとづいておらず、完全に2次元世界に誕生したことである。
人気アニメキャラは非常に多いが、彼女のように全世界の音楽のブームを引き起し、音楽作品を発表してアルバムを発売し、現実世界に現れて次々とコンサートを開ける者はいない。

初音ミクは何かのアニメや漫画の作品から来たのではなく、YAMAHAVOCALOIDソフトウェアに由来している。これは電子音楽を作る音声合成ソフトで、VOCALOIDという言葉は、vocal(音声、声楽)とandroid(機械人間)から成り、よってVOCALOIDは人口音声や人造歌声という意味と解釈できる。このソフトによって、ユーザーはパソコンを通して、歌詞や楽曲を入力して人工合成の音色と歌が作れる。実際には、初音ミクはもともと日本の札幌のCrypton Future Media社がVOCALOIDの第二世代のソフトのためにデザインしたキャラクターである。この会社がデザインしたその他のボーカル・キャラクターは、鏡音リン・レン巡音ルカなどがあるが、これらのボーカルのイメージや製品はYAMAHA社とは何の関係もない。

 初音ミクのアニメ的イメージは日本の漫画家のKEIがデザインし、音声は声優の藤田咲から来ている。しかし藤田咲個人のイメージと初音ミクのキャラクター設定には何の関係もない。彼女はただ「はきはきと可愛く」というイメージで、放送される音楽に合わせて初音ミクのボイスバンクとなる無意味なカタカナの歌を歌うことを要求されただけである。Crypton Future Media社の初音ミクのキャラクター設定によれば、彼女の年齢は16歳で、身長は158cm、体重42kg、得意な歌は日本のポップスとダンス系の歌、得意な音域はA3〜E5、リズムは70〜150BPMである。名前の「初音」は「初めての音」、「出発点」を意味し、「ミク」に対応する漢字は「未来」であり、全部の名前の意味は「VOCALOIDが象徴する将来の音楽の可能性」である。

初音ミクの反応

 初音ミクは2007年8月31日に日本で初めて発売された。VOCALOIDソフトは初学者のために設計されておらず、電子音楽の製作に触れ始めたユーザーは適応するために時間が必要だった。そして巧妙な可愛いアニメ風味がアマチュア・ユーザーの興味を引き起こし、このソフトウェアの売れ行きは予想を早くも超えて大いに売れ、市場に出てからわずか1ヶ月で1万本が売れ、3ヶ月目には2.5本(注:万が抜けているとおもわれる)を越え、現在7.6万本を売り上げた。これは音楽ソフトウェアの売上としては、実にまれである。さらに予測できなかったのは、これによって電子音楽創作ブームが日本で再燃したことである。
この種の簡便な音声合成ソフトは、大きく音楽制作の敷居を下げた。初音ミクなどのVOCALOID製品の出す声は本物の歌手に比べるとやや距離があるが、アマチュアの音楽制作者にとっては、適当な歌手を探すことなしに自分の心の中の曲を表現して大衆と分け合う事ができるので、音楽制作の理想が実現した。

 初音ミクのソフトで制作した電子音の作品はすぐに多くの流行の動画共有サイト上で熱心に視聴された。始まったばかりの時は、これらの作品の大半は懐かしの流行歌や面白い流行歌のカバーであった。例えば初音の最初期の有名曲「甩葱歌」(ネギ振り歌、Ilevan polkaのこと)は、活発で面白い曲風やリズムで、迅速にクリック数一位となった。しかしこのあとにはオリジナル曲がだんだんと増え、優秀なオリジナル作品は驚くような成績を上げた。例えば、2007年のikaのオリジナル曲「把你给MIKUMIKU掉」(みくみくにしてあげる)は、発表から2ヶ月で165万回の視聴があり、2012年8月末には一千万の視聴回数を突破した。初音ミク知名度が不断に拡大するに従い、例えば絵やアニメといったその他のこのイメージを取り巻く創作の情熱を刺激した。ネット民は自発的に協力して、作曲や編曲や作詞や絵やアニメといった仕事の担当を分担して、創作を行った。そして以前にはなかったネット創作のブームをもたらした。初音ミクが世に出てから現在まで、初音ミクの曲やビデオのYouTubeや日本のニコニコ動画へのアップ量はすでに10万を超えている。

 初音の大ブームに従い、あるプロの歌手は自分の音楽制作に初音の声をコーラスとして加えた。初音の音楽CDは続々と発売されて日本の流行音楽ランキングに入り、有名曲はカラオケの人気曲となった。ある人間の歌手は初音のオリジナル曲をカバーした。あるネットゲームも初音の歌をBGMとしてゲーム中にそのイメージを使用した。著名な電子ゲームメーカーのSEGA社は初音を主役として、次々とPSP任天堂3DSPSVitaなどをプラットフォームとした音楽ゲームを発売した。その中には初音ミク創作ブームのなかの有名曲を収録し、Cryptonが設立したオフィシャル投稿サイトのPIAPRO上で初音の曲と挿絵と服装デザインのコンテストを継続している。これらの
ゲームは現在100万本を売り上げた。

 2010年3月9日、初音ミクの個人コンサート会「初音未来之日感謝祭」が東京で行われ、このコンサートによって初音ミクは人類史上初の半ホログラム(2.5D)技術を用いてコンサートを行ったバーチャル・アイドルになった。このコンサートの2500枚のチケットはあっという間になくなり、他にも三万人を超す忠実なファンがコンサート当日に有料ネット中継を通じて出演を鑑賞した。こののち、類似のコンサートが続々と日本やアメリカやシンガポールで行われた。ホログラム投影技術の発展に従い、2011年11月にシンガポールで開催された初音ミクのコンサートでほんとうの意味の3D技術が使用され始めた。2012年8月の日本の横浜のコンサートでは、水や照明の効果を用いて、舞台效果が更に華やかになった。2012年10月の台湾と香港のコンサートは合わせて約1.5万人の来場を引き寄せた。香港公演に参加した観客の意見によれば、ライブの3D効果は迫真であり、初音のイメージはとても立体的だった。

初音はなぜこんなに人気なのか

 中国ゲーム業界ベテランの視覚芸術クリエイターである栾孟杰の紹介によれば、初音ミクは国内でも非常に人気があり、特にゲームやアニメを好むオタク文化コミニティーで人気があり、その他にも多くの人が初音のイメージや曲を非常に熟知しているという。彼は初音ミクの流行とオタク文化には密接な関係があり、初音ミクのイメージは非常にオタク文化の審美的特徴と符合すると認識する。16歳から18歳の少女、ツインテール、大きな目、長い睫毛、細い顔、制服に似た服装デザインだ。つぎにオタク文化ではもともとバーチャルな人物が流行する。これらの人物は現実のアイドルのように年を取らず結婚もしない。初音ミクオタク文化のアイドル追っかけ方式に非常に合致している。

 しかし初音ミクの元の声は日本語であるため、中国語の曲の創作は日本語の発音を調整して中国語にするため、難易度が高い。よって国内(注:中国)では初音ミクVOCALOIDシリーズのソフトウェアを使って音楽を制作するクリエイターは少なく、現在初音ミクは中国ではせいぜい一種の文化的符号や象徴でしか無い。

 中国最大のゲームショウChinaJoyに就任した青行灯は、国内の数少なゲームデザイン専攻を卒業している。彼女の見る所、初音ミクがこのようなブームを引き起こせた鍵は、開発者がこのキャラクターの使用をすべての人に開放したことだという。商業的用途に使いさえしなければ、初音ミクから創作をしてネット上に頒布できる。良いデザインや作品、例えば服装や曲などが出現しさえすれば、開発者はクリエーターから版権を買ってゲームに使用出来る。このような方法は、LinuxWikipediaの運営システムを思い出さざるを得ない。つまりオープンソースやプラットフォームを通じて、大量の個人がボランティアで知識と創造力に貢献する。この意味から言うと、初音ミクもみんなが知恵や力を出しあって獲得した成功であり、情報化時代の一種の革命的なアイデアと娯楽の生成方式である。

  Crypton Future Media社のCEO伊藤博之は本誌の取材を受けたときもこの観点に同意したが、しかし更に進めて、初音ミクの価値はここにあるべきだと述べた。「人々が初音ミクを使って様々な作品を創作しています。音楽にかぎらず、イラストやダンスに至るまで各種の創作も次々と生産されています。クリエイターには、プロや新世代や、学生や子供がいます。4、50歳を超えた中年や、交際が普通の人、表現が得意でない人も居ますし、耳が聞こえない体に障害がある人もいます。こう言う事もできます。今まで創作活動に完全に触れていなかった人、体の原因で人前で自分を表現できなかった人、誰でも初音ミクを使って創作し発表することができます。創作は人類の本能であり、人生に活力を充満させるビタミンです。まさに初音ミクが我々にこの点に気づかせてくれました。」
初音ミクのこれほど大きな反応に、伊藤博之は最も重要な点は「我々が土壌を育み、クリエイターが簡単に創作できる環境をつくり調整規則を制定したこと」だと認識する。

一般人が音楽の夢を実現する

 Crypton社は現在、世界最大規模の電子音楽ネット頒布プラットフォームのKARENTを営業している。その中には中国のクリエイターのsolpieとLunaの曲もダウンロードできる。つまり、初音ミクの成功はかなりの程度ソーシャルメディアの発展に負っていると言えよう。その中にはYouTubeニコニコ動画のサイトやPIAPROなどのCGM(Consumer Generated Media,消费者自主メディア)よUGC(User Generated Content、ユーザー生成コンテンツ)メディアだ。

  2012年7月、ヤマハから授権された上海禾念信息科技有限公司の、販売し運営する中国語の女声「洛天依」つまりVOCALOID第三世代の音声合成エンジンを基礎に開発された全世界初の中国語VOCALOIDボイスバンクが、中国で発売された。素早く、国内のマンガやアニメやゲームをテーマとする弾幕動画共有サイト「哔哩哔哩」(bilibiliまたは略称のB站ともいう)上で、毎週洛天依を使用して創作した中国語の曲がアップロードされ、作風も様々で、爽やかでなものや耽美的なもの、面白おかしかったり、ナンセンスだったりするものがあった。この中国の若きクリエイターたちは、アマチュアやプロを問わず、この創作形式を存分に利用して彼らの考え方やアイデアを表現できる。

  80后(80年代生まれ)の裕剣流は、VOCALOIDソフトの使用者(界隈では調教者や調音師と呼ぶ)である。彼は音楽を熱愛し、大学時代には同級生とバンドを組んだこともある。2010年11月に裕剑流は初音ミク接触し、ここからこのソフトを使って音楽を作り始めた。現在多くの初音ミク洛天依が歌う曲を制作し、界隈ではとても有名であり、人間の歌手たちもこれらの曲をカバーし始めた。彼の説明によれば、以前国内では、初音ミクを用いて音楽制作を行う人はとても少なかったという。初音のボイスバンクは日本語であり、彼自身は日本語の基礎を少し知っていて、どのように初音に日本語で中国語を歌わせればいいか分かった。しかし全体的には比較的面倒だった。

  洛天依が今年7月に世に出てから、国内ではすでに迅速に多くのこのソフトの愛好者や創作コミュニティやグループが出現した。裕剣流もネット上で知り合った各種の初音ミク洛天依の創作が好きな友人と共に、裕剣流工作室を設立した。彼らの中には、絵を描く者、歌詞を書くもの、アニメPVを作る者がいて、彼本人は作曲と編曲、及び大部分の歌詞創作を担当している。彼のいうには、このような役割はP主と呼ばれ、producer(制作者)の略称であり、創作全部の最も重要な中心だという。現在の彼は、時間の半分を使って、商業用途のゲームBGMを含む、自分の好きな音楽の創作をおこなっている。

 彼にとって、初音に代表されるこの種の音楽制作形式は、自分の創作のあらゆる束縛をなくす。現実の歌手のための創作はその人の声の条件を考慮しなければならない。バーチャルな歌姫のための創作はこの種の制限がない。以前にbilibiliの洛天依週刊新曲ランキングで一位になった彼の曲「雑貨店魔法幻想曲」を例にすれば、この歌の速度はとても早く、高低音の切り替えも非常に多いので、人間の歌手なら長時間練習してやっと完成にできるかもしれない。また以前の音楽製作ソースとプラットフォームは、普通の人間が接触しずらく、オーディション番組に参加でもしなければ、他の人に自分の音楽作品を聞いて貰える手段と機会が少なかったが、しかし現在では、ネット上で多くの人と共有できる。彼の見方によれば、初音ミクがもたらしたこの種の音楽制作形式は革命的なもので、バーチャルな歌姫のプラットフォームは創作のあらゆる制限を無くし、心の赴くままに自由自在に行動でき、一人ひとりが彼女に自分や世界のために歌わせることができ、草の根の音楽人が夢を実現する素晴らしい手段となった。

 アピール力と影響力から見れば、初音ミクはすでに現実世界の多くのスターを超えている。バーチャル・アイドルとして、初音ミクが持つ優位はあらゆる現実生活のアイドルを秒殺するに足りる。彼女は永遠に病気にもならず、永遠に16歳で、マイナスのスキャンダルが噂されることもなく、マネージ会社と利益の配分をめぐって争うこともない。彼女は無限の才能を持ち、技術の発展が彼女のコンサートをいよいよ完璧なものとする。彼女は瞬時に姿を変え、できないことはない。もっと重要なのは、彼女の創造力は枯れることがない。なぜなら毎日何千何万のファンが彼女のために創作するからだ……

  2011年12月グーグル・ジャパンは初音ミクをテーマにしたChromeブラウザの广告を出した。その中で、初音の有名曲「Tell your world」が採用され、画面の中の無数の若者たちは初音をテーマとした創作を行い、そしてネットを通じて共有した。裕剣流は、彼と初音ファンはこの広告を見て感動の涙を禁じ得なかったと言った。そのなかのキャッチフレーズ -つまりeveryone,creator(みんなが創作者)は、彼らの心の声を適切に言い表していた。これこそがバーチャル・アイドルの真相である。彼女はインスピレーションの源であり、このアイドルに魂を与えたのは、無数の彼女のために貢献する才能と創造力を持った人々である。これは疑いなく新たな娯楽文化と新たなアイドル時代を切り開いた。