中国語新聞「南方日報」のボカロ記事を翻訳してみた

前に翻訳したのが受けたみたいなので、冬休みで暇だから調子に乗ってもう一本翻訳してみる。
中国共産党広東省委員会の日刊紙である「南方日報」の記事で、中国語ボーカロイド洛天依が与えた影響や、中国のボカロPや歌い手のインタビューが載っている。
中国のボカロシーンやボカロの受容が分かる良記事。

記事の中に出てくる人や曲はこちら。調べてもわからなかった人や曲があるので、全てではない。また間違いがあるかもしれない。
H.K.君:
洛天依】千年食譜頌【オリジナル】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm18334517
投稿(ニコニコ)
http://www.nicovideo.jp/user/19459730/video
投稿一覧(bilibil)
http://www.bilibili.tv/mylist1690#1690

裕剣流:
洛天依】雑貨店魔法幻想曲(PV付き)【裕剣流】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm18976621
投稿リスト(bilibli動画、ニコニコよりも数が多い)
http://space.bilibili.tv/146339
投稿(ニコニコ)
http://www.nicovideo.jp/user/21589978/video

忐忑(MIKU's Remix)最终版(「忐忑」は上に心という漢字に「下」に「心」という漢字)
https://www.youtube.com/watch?v=kmejdcnDeys
龔琳娜 - 忐忑KTV版字幕 (大陸爆紅神曲)(上記の元ネタ)
https://www.youtube.com/watch?v=nFrcKYA1EL4

冥月:
冥月のマイリスト
http://www.nicovideo.jp/mylist/17305467
月·西江 (冥月カバー)
http://www.youtube.com/watch?v=pBQY-4bq2hs
暁秋月明(冥月カバー)
http://fc.5sing.com/4435294.html###

solpie:
solpieのマイリスト
http://www.nicovideo.jp/mylist/19281999
【ボーマス20参加】「月・西江」のPVを作ってみた
http://www.nicovideo.jp/watch/sm10875175
初音ミク】「暁秋月明」月見でもしませんか【中国風オリジナル】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm12145746

元記事:http://www.nfdaily.cn/pic2/content/2012-10/31/content_57285414.htm
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洛天依がアマチュア音楽の夢を歌いあげる

発表: 2012-10-31 23:59
ソース: 南方日報 - 南網
作者:南方日報見習い記者 張婧  記者 謝苗楓


楽家の裕剣流がバーチャルの歌姫洛天依を用いて曲を創作している。肖雄 羅思亮 撮影

もしあなたが音楽の夢を持っていたら、どうすれば実現できるだろうか?楽器を習う? ストリート・ミュージシャンをする?それとも「中国好声音」(中国のオーディション番組)に参加する?バーチャルの歌姫はあなたにもう一つの可能性をもたらした。一台のパソコン、一本のソフト、それだけあれば音楽が楽しめる。

音声合成エンジンをもとに開発されたソフトに、可愛いアニメ風のイメージを加え、さらにある程度の背景設定を与え、音符と歌詞を入力さえすれば、彼女を話させたり、歌わせたりすることができる。これが、バーチャルの歌姫だ。

古代風に髪を結い、青と白の服を身につけ、頭にヘッドセットを被り、100曲を超えるオリジナル曲を持ち、ネットやテレビにも彼女が歌う姿が現れたことがある。彼女こそバーチャルの歌姫の洛天依である。今年の7月、中国風要素にあふれる洛天依が売り出されると、すぐに草の根の音楽愛好家達の支持を受けた。統計によれば、3ヶ月で、ネット上の洛天依と関係する作品は2000件以上に達し、この数字は増え続けている。

洛天依は絶え間なく新作を出し、草の根の音楽家に希望をもたらした。音楽に情熱を抱く人々の群れは、バーチャルと現実の交差する音楽の道の上に、自分の音楽の夢を描き続けている。

深夜2時、HKは半月も苦労しつづた作品を取り出して、録音室で調音を繰り返し、バーチャルの歌姫にもっと完璧に歌わせようとしている。静かな夜はHKのインスピレーションを充実させる。だいたい二晩の奮闘を経れば、この新作が視聴者の前に姿を表すだろう。

バーチャルの歌姫洛天依の後ろには、HKのような人々がいる。音楽創作者、ソフトの調音師、イラストレーター、映像処理とと特殊効果、カバーの歌い手など。もしこの熱愛者たちが居なければ、バーチャルの歌姫は0と1の塊にすぎないだろう。

彼の努力がまさに、洛天依に生命を与え、中国音楽に全く新しい文化モデルを提供する。つまり下から上の、自由と可能性に満ちたオープンな草の根の創作だ。

音楽創作者が曲を作り出す。ソフト調音師が洛天依に歌わせる。音楽愛好家がカバーした後またアップロードする……。参加者の役割も絶えず入れ替わり融合する。創作者は調音師でもあり、調音師も創作者になりうる。もし情熱があれば、誰でもカバーを歌い、MVを作ることができる。

曲が魂を錬成する

音楽創作者のそれぞれの歌が、バーチャルの歌姫の魂を錬成している。創作者の歌声に生きる彼女は、思い出を持ち、喜怒哀楽もある。

現実では、HKはプロのミュージシャンであり、深セン圳にある某社の音楽ディレクターを務める。ネット上では、彼は洛天依のオフィシャル試聴曲「千年食譜頌」の作者であり、国産アニメ「鋼羽」の音楽監督でもある。

現在、「千年食譜頌」の国内でのクリック数は50万回を越えた。もし洛天依がなければ、この曲は全く異なる運命にあったかもしれない。もしHKがこの曲をどこかのレコード会社に渡していれば、市場価格に応じて彼は数千元(注:1人民元=約14円)を稼げただろう。この曲は歌手の誰かに渡されるかもしれないし、彼の名前が上に書かれて、仕舞い込まれていたかもしれない。仮定の結果に比べると、HKは現在の状況のほうが好きである。つまり彼の音楽が知られて喜ばれることだ。

洛天依の出現は、HKに生き生きとした活気を感じさせた。彼はバーチャルの歌姫の曲の創作に身を投じ、一連の作品を発表し、国内外の多くのネット民の好評を受けた。

HKと同じように、裕剣流ももプロのミュージシャンである。2010年11月3日が、裕剣流のプロのミュージシャンとしての人生の始まりだった。その前は彼は幾つもの自由業を試してみたが、ずっと気に入らなかった。そしてこの日、バーチャルの歌姫と出会い、彼に音楽の夢を再び拾わせたのだった。

裕剣流のようなクリエイターにとって、バーチャルの歌姫の出現は、全く新しい機会だった。

「以前は歌を一曲書いたあと、適当な歌い手を探す必要があり大変でしたし、歌手から来る要素が創作の自由度を制限していました。」裕剣流は語る。「現在私は歌い手に対する全ての配慮を放り出すことができます。私の想像に従って、完全に私個人のスタイルに属する曲が作れます。例えば『雑貨店魔法幻想曲』のような速度がとても早い曲を、洛天依は何のプレッシャーもなく歌い終わることができます。」

洛天依が世に出てからの3ヶ月と少しの期間で、裕剣流はすでに7曲の作品を発表した。彼の作品の歌に背景を設定し物語を語るスタイルは特徴的で、皆の歓迎を受けている。

独学の裕剣流とは違い、小羊は正規の教育を受け、大学で音楽制作を学んでいる。「私の夢はDJになることです。私の作曲や編曲を通して、作品が他人の賞賛を得られるといいと思います。私を公演に招いて、満場をhighにさせてください!」

2010年11月、大学三年生の小羊は一晩徹夜して、バーチャルの歌姫(注:多分初音ミク)を用いて神曲『〓〓』(注:「忐忑」は「上に心」という漢字に「下」に「心」という漢字)をリミックスした。この鮮明なダンス・スタイルの作品は、国内某有名アニメ系サイト(注:多分bilibili動画)のクリック数が6.8万回に達し、某著名バラエティ番組に採用されるほどだった。自分の作品が主流文化の視野に入ることが出来たことで、小羊は嬉しい。「とても変だと思う人達も居ますが、いいと感じる多くの人もいます。これが音楽の魅力です!」

調音が命を注入する
すべての調音師は完璧主義者である。何百何千の反復から、調音師は注意深く練り上げ、完璧なフレーズを追求する。

一曲の編曲が完成すると、ソフトに向かってメロディーや歌詞を入力し、歌姫の滑舌や呼吸や速さなどをゆっくり調整し、歌声がなるべく「人間の感情」を含むようにする。これが調音師のしごとだ。異なる調音師は曲に対して異なる理解を持ち、技術もむらがあるので、調整した作品もそれぞれの特長がある。

多くの人の見る所、ソフトの調音は実は繰り返しのつまらない過程である。ただし調音師にとっては、この過程は指導の過程であり、知らず知らずのうちに、洛天依に自分の感情を注入し、彼女がゆっくり育つのを見つめている。


MiyaPAは撮影を学ぶ大学生である。洛天依の出現後、彼のすべての作品は殆どこの「女の子」に関するものになった。「私が何百何千回もひとつの音を調整する時は、ルームメイトが嫌になりそうになります。」MiyaPAの調教で、洛天依は歌うだけでなく、『江南style』も踊れるようになった。

MiyaPAと同じように、三可の青春にも、一つの音楽の夢がある。

三可は有限な空き時間を全て洛天依にささげている。ネット上で彼は成熟した技術の調音師となり、96万人の人気をあつめた。現実中の彼は広州の某高校の一人の一年生にすぎないのだが。

16歳の若さでも、三可がバーチャルな歌姫と接触していた時間はもう7年になる。「子供の頃ゲームが好きでした。ある日お父さんが突然私に『歌うソフトウェアを研究してみないか』と言いました。」父親の提案を受け入れた三可が、最終的に手に入れたのはバーチャルの歌姫の初代ソフト(注:多分LeonかLora)だった。

「あの頃は夢中で、毎日宿題が終わると、私は研究を開始しました。」初代ソフトはあまり人間化していなかったため、当時9歳だった三可にとって、操作するのはかなり苦労した。「私はそれを私に話しかけさせるのが好きでした。しかし当時手に入れたソフトは英語の発音しかサポートしていなかったので、私達の会話は全て英語でした。」同級生たちは三可が「遊んでいる」と思っているが、彼はそう思っていない。「私も自分の音楽を作って洛天依に歌わせたいです。現在は調音を改善し、発声の滑舌や強弱や速度を研究すれば、将来洛天依に私の歌を歌わせられる日が来るでしょう。」
カバーが現実を持ち込む
作品の新たなアレンジを通して、虚構の歌姫を現実に持ち込み、ネット上の優秀なカバー歌手は支持を受け、アマチュア音楽に希望をもたらした。

友達にとって、深藍は「マイク王」(歌が上手い人)だ。25歳の彼女は子供の頃から歌うのが好きで、ピアノを習ったことがある。かつての夢は中央音楽学院に合格し、歌手になることだった。現在大学院を卒業した彼女は広州の国営企業で働いている。

去年、深藍は何気なく『Tell your world』を聞き、深く感動した。彼女の初めてのカバー曲の録音は、友だちにミックスを手伝ってもらった。

「聞いてくれる人が本当にいるとは思わなかったのですが、友達はみな私が上手く歌えていると言いました。」深藍はここからカバーの道を歩み始めた。洛天依の出現後、深藍は彼女の歌のカバーに専念し始めた。彼女は自分が満足するまで洛天依の歌を次々と歌うことができる。

「電子音になれない人がいるので、私の歌声を通して、多くの人にバーチャルの歌姫を知ってもらいたいです」

今年9月、一人のネット民が深藍に冥月のカバーした「月西江」を推薦した。深藍はここから冥月の声を知り、冥月の忠実なファンとなった。

『月西江』はネットユーザーのSOLPIEの制作だが、バーチャルの歌姫の歌声に余り満足しないリスナーたちもいた。「曲の雰囲気は美しいのですが、現在の技術の条件では、電子音はどうやっても人間の声のような流れるような声やつぶやくような声で歌えません。冥月のカバーこそがこの詩の最も完璧な解釈です。」深藍は評価する。

しかし冥月はそうは思わない。「本当の所は比べられません。ファンによっては、バーチャルの歌姫が永遠に最高です。個人の好みによります。」

「90後」(90年代生まれ)の冥月はとある音楽学院の学生である。彼女は将来は歌によって生活したいと夢見ている。この夢は今の彼女にとって実現はそれほど難しくないよに見える。彼女の同級生が無名な時、彼女はカバーによってオタク界でちょっとした知名度があり、少なからぬ商業提携の誘いを受けた。

冥月のカバーした名曲の中には、「月西江」の他にも、「暁秋月明」などの、バーチャルの歌姫がオリジナルを歌っていたものがある。これらの中国風の色彩を持ったカバー曲のダウンロード数は万単位であり、オリジナルを超えたものまである。

「もしダウンロードから印税を計算すれば、冥月は『白富美』(「色白で金持ちで美しい」という男にとっての理想の女性を表現した流行語)になっている。」一人のネット民は笑いながら言った。

国内のカバー界では、すでに少なからぬ「カバーのスター」が出現している。「ネット上の優秀なカバー歌手はみな各種のビジネスの誘いを受けています。「中国好声音」(人気オーディション番組)も誘いに迎えに来ました。洛天依は将来も多くのカバー歌手を現実に連れ出し、観衆の前に立たせるかもしれません。」同じくカバーの有名人であるネット民の阿夾は言う。

スポットライトの下に立たなくても、プロの音楽知識がなくとも、一銭も儲けがなくてもいい。一個の情熱と熱血によって、洛天依のファンたちはバーチャルと現実の間を歩きまわる。ともに歩み、アマチュア音楽の夢を発展させている。

とあるベテランのミュージシャンの指摘によれば、バーチャルの歌姫の出現は確かにアマチュアのミュージシャンに新たな希望をもたらした。しかしこれは我慢強い育成を必要とする、長期発展的なモデルであり、国内の音楽教育や経済水準や版権保護などは、先進国と一定の距離がある。純粋な趣味で、利益を求めない創作はこの種の環境では永らえるのが難しく、バーチャルの歌姫はまだ多くの挑戦に直面している。

「未来がどうであれ、頑張り続ける人がいれば、より多くのクリエイターを迎え入れ、そうすれば希望はかならずあるでしょう。」HKはいう。